介護とお世話の違い

 「お仕事は何をされているんですか」「介護の仕事です」「へー、介護ですか。それは大変ですね」「そうですか?」「だって食事の世話や、お風呂のお世話、なによりお下のお世話でしょ。大変ですよ」「確かにそう言われてみれば、大変なのかも知れませんね。でも特別に大変だと思ったことはないんですよ」「そうなんですか?でもお下の世話はやっぱりいやだな。臭いし!」「みなさんそう言いますね。やってみればわかりますよ。匂いなんて3日で慣れます」「そんなもんなんですか。私にはとてもできないな」「そんなことはないですよ。だって、ほぼ毎日、自分のオシッコとウンコの匂いを嗅いでるじゃないですか。あれと同じです」「それは自分のものだからしょうがないですよ。他人のものとなるとね。下の世話だけはご免こうむりたいですね」

 「さきほどから、お世話、お世話と言っていますが、介護とお世話は違うんですよ」「介護もお世話も同じことだと思っていましたが、何が違うんですか」「行為の結果は同じ事になるのかもしれませんが、中身が違うんです」「ほう」「例えば食事の場面を想定しましょう。介助される方の”食べる”を支えるのが介護です。お世話は”食べさせる”です」「う~む、こういうことですか。介護は能動的でお世話は受動的!」「おお、いい感じです。介助される人の食べる意欲と残っている機能を引き出すのが介護です。お世話は、お世話する人の意欲の方が勝ってしまい、介助される人は受け身になってしまう。食べたくもないのに、口に食べ物を運ばれる。つまり、食べさせられる、ということになるわけです」「わかったような、わからないような」「一言で言えば、主体がどちらにあるのか、です」「主体ですか?」「はい。主体とは、その人そのものの意志、魂の存在ですね。つまり介護される人の主体を引き出すのが介護で、お世話は、お世話する人に主体がある、ということです」

 「主体がどちらにあるのかがそんなに大切なことなんですか?」「はい、とても重要ですね。主体を無視され、抑制され続けると、その人の目は死んだ魚のようになるんです。無表情、無動となり、やがて廃人のようになります」「なるほど。だから、お世話には”余計な”という枕詞がつくんですね」「誰しも”余計なお世話”はうけたくありませんからね」