5年ぶりの入浴

 介護の仕事をやっていてよかった。昨日つくづくそう思った。3月からそらいろに来ている男性利用者Mさんが、5年ぶりにお風呂に入ることができたからだ。Mさんは78歳。原因不明の両下肢脱力で立つことはもちろん歩くこともできなくなった。以来、自宅でベッド生活。リハビリ型デイとショートステイを利用してきた。

 そらいろの檜のお風呂は、自立式浴槽というもので麻痺のある方や車椅子の方も普通に入ることができるお風呂だ。これまで障がいを持った多くの老人のお風呂を担当してきた。その経験からいえる入浴可能となる条件が二つある。その一つが本人がお風呂に入りたい、と思うこと。そしてもう一つがわずかでもいいから介助で立位が取れることだ。

 Mさんは下肢脱力により立位も歩行も不可とされてきた。そのためリハビリ型デイでもショートでも車椅子に乗りっぱなし。お風呂もシャワーチェアに2人がかりで持ち上げて移乗。シャワーをかけるだけのお風呂だったという。案の定、そらいろにやってきたMさんは両下肢ブラブラ。端座位が取れない状況だった。

 そんな中で始まったMさんのケア。まずは短い時間でもいいから普通の椅子へ移乗して過ごすこと。利用当初は全く踏ん張ることができないため、前から担ぐような形での移乗介助からスタート。お風呂でも車椅子から洗い台に全介助で移乗して身体を洗い、再び車椅子へ移乗。端座位が充分に取れないため、二人介助での対応となる。

 こうして1か月が過ぎたあたりから、Mさんの両下肢に変化が見られるようになった。両足首を動かすことができるのだ。特に左足は5センチほど上げることもできるようになった。それとあわせて、移乗介助にも変化が出る。テーブルに前腕をついて前屈みになり、いちにのさんで腰を上げ移乗することができるようになったのである。

 「なんだ、できるね」「ほんとだ」。こんなやりとりをしながら4月からは、浴槽に両足を入れてお風呂に入るイメージトレーニングも開始した。

 そして昨日の朝、お迎えに行くと奥様から「お風呂に入ってみたい」って言ってますよ、と嬉しい知らせ。「今日入るよ」「はいってみっか」。こうして5年ぶりに湯船に浸かることができた。「入れた!入れた!よかった」と喜ぶスタッフ。それに対してMさんは黙ってピースサイン

 たかがお風呂、されどお風呂。肩まで湯に浸かって「あぁ」とため息をもらすのが日本人。心が動けば身体も動く。Mさんの入浴ケアを通して、改めて自分たちが実践している生活ケアの底力を再認識できた。