コーヒーの話

 東京から戻り実家で介護事業を始めて3年になる。最近、朝食の後、ペーパーフィルタードリップでコーヒーを淹れることが楽しみになっている。

 コーヒーが大好きだったというわけではないが、東京にいた時から朝食後はコーヒーを飲むのがルーティンだった。というよりも妻がコーヒーを飲んでいたので、そのついでに自分も飲んでいた。ドリップで淹れることにこだわっていたわけではない。出勤前 の慌ただしい時間だし、カセットを装着してスイッチを押せばホットができるコーヒーfメーカーのお世話になっていた。

 豆にも器具にもこだわりなどなかった自分がドリップでコーヒーを淹れ始めたきっかけは、自宅が仕事場になったため通勤時間がなくなり、ゆっくりと豆を挽きコーヒーを淹れる時間ができたこと。そしてもう一つのきっかけは、妻からプレゼントで送ってもらったコーヒー豆のせいである。ちなみに、妻は東京に住んでいる。別に仲が悪いわけじゃないが(そう思っている)、離れて暮らしている。

 「この豆、おいしいわよ。飲んでみたら」。宅急便で届いた袋からはコーヒー豆のいい香りがしていた。普段、買っているお店のコーヒー豆とは明らかに香り立ちが違う。ミルで挽いている時から、部屋中に香りがひろがった。コーヒーの苦みと酸味と香ばしい香り。久々にうまいと思った。以来、コーヒー豆は妻が教えてくれた東京の焙煎屋からネットで購入している。

 それにしても、コーヒーは飲むまで手間ひまがかかる。お湯を沸かし、豆を挽き、器具を温め、ゆっくりとお湯を注ぎ、蒸らし、湯を注ぐ。準備を始めてから飲み始めるまで時間を計ったら10分が過ぎていた。それでも、朝のコーヒーはやめられない。縁側の籐椅子に座り、庭を眺めたり、本を読んだりしながら飲む。東京での生活ではなかったのんびりとした時間が流れる。豊かな時間といってもいいのかもしれない。コーヒーは不思議とそんな気分にさせてくれる。